睡眠制限法のやり方を深掘り——「寝床にいる時間」を最適化して眠りを立て直す(CBT-Iの核)
不眠の人ほど『少しでも眠ろう』と寝床にいる時間が長くなり、かえって眠りが浅く細切れになりがちです。CBT-I(不眠の認知行動療法)の中心『睡眠制限法』は、寝床にいる時間を実際の睡眠に合わせて最適化する方法。睡眠日誌のつけ方・睡眠効率の計算・週ごとの調整・注意点まで、手順を具体的に解説します。

「長く寝床にいる」ほど、眠りは浅くなることがある
眠れないと、つい「少しでも長く横になっていよう」と寝床にいる時間を延ばしがちです。ところが不眠では、これが逆効果になることがあります。眠っていない時間が増えると、眠りは浅く・細切れになり、「ベッド=眠れない場所」という悪い学習も強まっていくからです。
そこで使うのが睡眠制限法。寝床にいる時間を、実際に眠れている時間に合わせて短くすることで、眠りを深く・ひとまとまりにしていく方法です。世界の睡眠医療が第一選択とするCBT-I(不眠の認知行動療法)の中心的な柱で、もともとはSpielmanらが体系化しました(Spielmanら, 1987)。
この記事では、その手順をできるだけ具体的に深掘りします。
3行でわかるポイント: 睡眠制限法は「寝床にいる時間(TIB)」を「実際に眠れた時間(TST)」に近づけ、睡眠効率=眠れた割合を高める方法です。睡眠日誌で現状を測り、寝床時間を一度短くして、効率が上がったら少しずつ延ばします。最初は眠気が増えるため、自己流で極端に削らず、専門家の指導のもとで行うのが安全です。
今夜から始める「逆算式」5ステップ
本来は睡眠日誌と睡眠効率(後述)でていねいに管理しますが、まずは入口として、**シンプルな「逆算式」**から始めてもかまいません。やっていることは同じ——「眠れている時間に、寝床にいる時間を合わせる」です。
① 自分の「実際に眠れている時間」を知る
寝床にいた時間ではなく、実際に眠れたおおよその時間を1〜2週間ぶん把握します。睡眠日誌でも、計測アプリ(第5回。ただし加速度センサー式は精度が低く、あくまで目安)でも構いません。たとえば平均5時間だったとします。
② 起床時刻から逆算して「寝床に入る時刻」を決める
起床時刻を固定し(例:朝7時)、そこから平均睡眠時間を引いた時刻を就寝時刻にします。
例)起床 7:00 − 平均睡眠 5時間 = 深夜2:00に布団へ
⚠️ ただし、寝床にいる時間を「4時間半(できれば5時間)」より短く設定しないこと。削りすぎは日中の強い眠気を招き、運転や作業の事故につながります。
③ 決めた就寝時刻を1〜2週間守る(眠くなるまで寝床に入らない)
決めた就寝時刻(例:2:00)までは、眠くても寝床に入らない。それまでは寝室以外で静かに過ごします。寝床でのスマホ・読書はしません——「ベッド=眠る場所」という結びつきを取り戻すため(これを刺激制御と呼びます)。起きる時刻は、眠れた夜も眠れなかった夜もいつも同じに。
④ 「10〜20分で寝つける」を目安にする
①〜③を続けると、寝床に入って10〜20分ほどで眠りにつけるようになってきます。日中にも眠気が出てきたら、眠る力が戻ってきたサイン(順調な証拠)です。
⑤ 眠気が戻ったら、就寝時刻を15分ずつ早める
日中の眠気が出てきたら、就寝時刻を15分ずつ前倒しして、寝床にいる時間を少しずつ延ばします(例:2:00 → 1:45)。日中の眠気が落ち着くまで、③〜⑤をくり返します。
大切な「20分ルール」:寝床に入って約20分たっても眠れないときは、いったん寝室を出て、眠気が来るまで暗めの部屋で静かに過ごし、眠くなったら戻ります。「眠れないまま寝床で粘る」のを避けるのがコツです。最初の3日ほどはつらく感じますが、多くの場合2〜3週間で手応えが出てきます。
なお、睡眠制限法を中心とするCBT-Iは、慢性不眠において睡眠薬に劣らない効果があり、しかもやめた後も効果が続きやすいことが、複数の研究のまとめ(メタ分析)で報告されています(Trauerら, 2015)。薬のように飲み続ける必要がないのが大きな利点です。
ここまでが「まず始める」入口です。もっと正確に、数字で管理したい人は、次の「睡眠日誌+睡眠効率」を使うやり方へ進みましょう(考え方は同じです)。
ステップ1:まず2週間、睡眠日誌をつける
いきなり時間を削るのではなく、**今の自分の睡眠を「測る」**ことから始めます。1〜2週間、毎朝ざっくりで記録します(分単位の正確さは不要です)。
【睡眠日誌に書くこと(毎朝記入)】
・布団に入った時刻
・寝ついたと思う時刻(だいたいでOK)
・夜中に目が覚めていた合計時間
・最終的に目覚めた時刻
・布団から出た時刻
・日中の眠気(5段階などで)
ここから2つの数字を出します。
- TST(実際に眠れた時間) … おおよその合計睡眠時間
- TIB(寝床にいた時間) … 布団に入ってから出るまで
ステップ2:睡眠効率を計算する
睡眠効率= TST ÷ TIB × 100(%)
寝床にいた時間のうち、どれだけ実際に眠れていたかの割合です。一般に85%以上が一つの目安とされます。
【計算例(あくまで説明用の数字です)】
布団にいた時間(TIB):8時間(480分)
実際に眠れた時間(TST):6時間(360分)
睡眠効率 = 360 ÷ 480 × 100 = 75%
→ 2時間ぶん「眠れずに寝床にいた」状態
この例では効率75%。「眠れないのに寝床で過ごす時間」が長く、眠りが薄まっています。
ステップ3:寝床にいる時間を「眠れている時間」に合わせる
次に、新しい寝床時間(TIB)を、平均TSTくらいまで短くします。先の例なら、寝床時間を約6時間に設定します。
組み立て方はシンプルです。
【新しいスケジュールの作り方】
① 起きる時刻を固定する(例:6:00)
② 新しい寝床時間(=平均TST)を決める(例:6時間)
③ 起床時刻から逆算して、寝床に入る時刻を決める
6:00 − 6時間 = 0:00 に布団へ
→ 眠くなくても0:00まで起きていて、6:00に必ず起きる
ポイントは2つ。
- 寝床時間は短くしすぎない。一般に4時間半〜5時間を下回らないようにします(削りすぎは日中に強い眠気を招くため)。
- 起床時刻は何があっても一定に。眠れた夜も眠れなかった夜も、同じ時刻に起きます。
最初の数日は眠気が増えますが、それは「眠る力」が寝床に集まってくる過程でもあります。
ステップ4:1週間ごとに微調整する
1週間続けて、睡眠効率を見ながら寝床時間を調整します。
| 1週間の睡眠効率 | 調整 |
|---|---|
| 90%以上(よく眠れている) | 寝床時間を15〜20分増やす |
| 85〜89% | そのまま維持 |
| 85%未満(まだ眠れていない) | 寝床時間を15〜20分減らす(4時間半〜5時間は下回らない) |
これを毎週くり返し、**「効率を保ちながら、少しずつ寝床時間を延ばす」**のがゴール。眠れる手応えが戻るにつれて、自然と睡眠時間も増えていきます。睡眠制限法を含むCBT-Iは、寝つくまでの時間や夜間に目覚めている時間を改善し、その効果が続きやすいことが複数の研究でまとめられています(Trauerら, 2015/Millerら, 2014)。
やってはいけない人・注意点
睡眠制限法は強力な反面、最初に日中の眠気が強まるのが弱点です。以下にあてはまる方は、自己流で行わないでください。
【自己流での実施を避けたほうがよい人】
・運転や危険な作業を日常的に行う(眠気が事故につながる)
・双極性障害・てんかんの既往がある
・大きないびき・呼吸が止まると言われる(睡眠時無呼吸の疑い)
・妊娠中、持病で治療中
・日中の眠気がもともと非常に強い
これらの場合や、自分で進めて2〜3週間たっても変化がないときは、睡眠外来・心療内科などの専門家や、信頼できるCBT-Iプログラム・書籍のもとで行うのが安全です(Kyleら, 2011 は実施初期の眠気を指摘しています)。
まとめ——「削ってから、延ばす」
| ステップ | やること |
|---|---|
| ① | 2週間、睡眠日誌をつける |
| ② | 睡眠効率(TST÷TIB)を計算する |
| ③ | 寝床時間を平均TSTまで短くする(起床は固定) |
| ④ | 週ごとに効率を見て15〜20分ずつ調整 |
睡眠制限法は「眠りを薄く広げる」のをやめ、「濃く、まとめる」ための方法です。土台となる起床・朝の光(第1回)と、深部体温の整え方(第2回)も合わせると、立て直しが進みやすくなります。
本記事は教育目的の情報提供であり、診断・治療に代わるものではありません。睡眠制限法は初期に日中の眠気を伴うことがあります。持病のある方・治療中の方・強い眠気のある方は、自己判断で行わず医療機関や専門家にご相談ください。
監修:大黒 充晴(柔道整復師(国家資格) / 杏林アカデミー(杏林予防医学研究所)上級講座修了 / JALNIマスター講座修了者 / 臨床歴23年)/ 編集:NJM編集部
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このシリーズ(全8回)
- 1睡眠の質を本気で上げる一番の方法——サプリより先に「起床時刻の固定+朝の光」
- 2眠くなるのは「深部体温が下がるとき」——睡眠と体温の関係・入浴のベストタイミング
- 3「寝れない」を科学で立て直す——世界の不眠ガイドラインが“第一選択”にする方法(CBT-I)と今夜からできる睡眠の基本
- 4睡眠制限法のやり方を深掘り——「寝床にいる時間」を最適化して眠りを立て直す(CBT-Iの核)今読んでいる記事
- 5睡眠計測アプリは使うべき?枕元のスマホと電磁波の不安も解説——測り方と現実的な設定
- 6夜は『暗く』が正解——寝る前の明るい白い光がメラトニンを止めて眠りを浅くする
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