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「善玉コレステロールは高いほど良い」は本当か?
HDL(善玉コレステロール)は高ければ高いほど良い——この常識は、63万人規模のデータと遺伝の研究によって、すでに崩れています。極端に高いHDLでむしろ死亡が増えること、HDLを上げる薬がことごとく失敗したこと、そして「量」ではなく「働き」を見る新しい考え方を、出典つきでやさしく解説します。
🟢 この記事のやさしい結論(30秒でわかる)
- HDL(善玉コレステロール)は、高ければ高いほど良い——これは、もう成り立ちません。
- 63万人を追いかけたデータでは、HDLがとても高い人でも死亡が増えていました。ただし増えたのは心臓や血管以外の死亡でした。
- さらに極端な高値(男性でおよそ116 mg/dL以上)では、死亡が約2倍という報告があります。
- 決定的なのは、薬でHDLを上げても、心筋梗塞は減らなかったこと。上げる薬は次々に失敗し、ひとつは害が出て中止になりました。
- いま注目されているのは、HDLが**どれだけあるか(量)**ではなく、**どれだけ働いているか(質)**です。
- 低いHDLは「犯人」ではなく「知らせ」。その背景にある内臓脂肪・血糖・運動不足に手を当てるのが本筋です。
1. 「善玉」という呼び名が、話をややこしくしました
このセクションの要点:善玉・悪玉は、運んでいる方向につけたあだ名であって、成績表ではありません。
コレステロールそのものは、LDLでもHDLでもまったく同じ物質です。
違うのは、それを運んでいる「船」です。
- LDL=肝臓から全身へ、コレステロールを配って回る船
- HDL=余ったコレステロールを回収して、肝臓へ持ち帰る船
回収して帰るほうを「善玉」と呼んだ。ただそれだけのことです。
そして「回収してくれるなら、多いほどいいはずだ」と、誰もが自然に考えました。
その考えが正しいかどうかを、この30年、世界中が実際に確かめました。
結果は、期待どおりではありませんでした。
2. 63万人のデータ——高すぎるHDLで増えたのは「心臓以外の死亡」だった
このセクションの要点:HDLと死亡の関係はU字。しかも両端で、亡くなる原因がまったく違います。
カナダ・オンタリオ州で、心血管の病気の既往がない40歳以上の631,762人を平均4.9年追いかけた研究があります(Ko ら, 2016/CANHEART研究)。
HDLと死亡の関係は、こう出ました。
| HDLの値 | 何が増えたか |
|---|---|
| 低い | 心血管の死亡・がんの死亡・その他の死亡——すべてが増えた |
| 高い(男性70 mg/dL超/女性90 mg/dL超) | 心血管以外の死亡だけが増えた(心血管の死亡は増えていない) |
ここは、じっくり読む価値があります。
HDLが高い人で増えたのは、心臓や血管の死亡ではなかったのです。
つまり、HDLは「心臓を守る指標」として振る舞っていない。研究者たちの結論も、**「HDLは心血管に固有のリスク指標とは言えない」**というものでした。
3. 極端に高い人では、死亡が約2倍
このセクションの要点:HDLにも「高すぎる側」があります。いちばん死亡が少ないのは、まん中でした。
デンマークの2つの大規模コホート、116,508人を対象にした研究が、さらに踏み込みました(Madsen ら, 2017)。
総死亡は、きれいなU字でした。
| HDLの値 | 総死亡 | |
|---|---|---|
| 男性 | 約97〜116 mg/dL | 1.36倍 |
| 約116 mg/dL 以上 | 2.06倍 | |
| 女性 | 約116〜135 mg/dL | 1.10倍(差は明確でない) |
| 約135 mg/dL 以上 | 1.68倍 |
そして、**もっとも死亡が少なかったHDL(谷の底)**は——
- 男性:およそ73 mg/dL
- 女性:およそ93 mg/dL
「高いほど良い」ではなく、「ちょうどいいところがある」。これがデータの姿です。
落ち着いて読んでください。 ここで「2倍」と言っているのは、男性で116 mg/dL以上という、かなり極端な高値です。健診で「HDL 68でした、良いですね」と言われた方が心配する数字ではありません。
この記事が壊したいのは、あなたの安心ではなく、「善玉は多いほど良い」という思い込みのほうです。
4. 決定的な検証——生まれつきHDLが高い人は、心筋梗塞が減らなかった
このセクションの要点:観察では分からない「原因かどうか」を、遺伝子を使って調べる方法があります。
ここまでは「一緒に起きている(関連)」の話でした。では、HDLは心筋梗塞を防いでいるのでしょうか。
これを調べるうまい方法があります。生まれつきHDLが高くなる遺伝子を持つ人を集めて、その人たちが本当に心筋梗塞になりにくいかを見るのです(メンデルランダム化といいます)。
生まれ持った遺伝子は、生活習慣や病気の影響を受けません。だから「原因かどうか」に、ぐっと近づけます。
結果はこうでした(Voight ら, 2012)。
| 調べたもの | 結果 |
|---|---|
| 遺伝的にLDLが高い人 | 心筋梗塞のリスクが2.13倍(=LDLは原因である) |
| 遺伝的にHDLが高い人 | 心筋梗塞のリスクは変わらなかった(0.93倍・統計的に意味のある差なし) |
同じ手法で、LDLは「原因だ」と出た。HDLは「原因ではない」と出た。
HDLが高い人が健康に見えるのは、HDLが守っているからではなく、HDLが高くなるような生活・体質だから——そう考えるほうが、データに合います。
5. 「HDLを上げる薬」は、ことごとく失敗しました
このセクションの要点:HDLを大幅に上げることには成功した。それでも、心筋梗塞は減らなかった。
理屈が正しければ、薬でHDLを上げれば病気は減るはずです。製薬会社は巨費を投じ、実際に試しました。
| 薬・試験 | HDLは上がったか | 結果 |
|---|---|---|
| トルセトラピブ(ILLUMINATE, 2007) | +72% | 死亡が1.58倍に増加。試験は早期中止 |
| ダルセトラピブ(dal-OUTCOMES, 2012) | +31〜40% | イベントに差なし。無益で中止 |
| エバセトラピブ(ACCELERATE, 2017) | +133% | イベントに差なし(1.01倍)。無益で中止 |
| ナイアシン(AIM-HIGH, 2011) | +約20% | イベントに差なし。無益で中止 |
| ナイアシン(HPS2-THRIVE, 2014) | 上昇 | イベント減らず。糖尿病・感染・出血が増加 |
HDLを133%も上げてなお、心筋梗塞は1件も減らなかった。ひとつに至っては、上げたら死亡が増えました。
ナイアシン(ビタミンB₃)について、正直に書きます
「ナイアシンはHDLを上げる」——これは本当です。 実測で20%前後の上昇が確認されています。栄養学の教科書どおりです。
しかし「ナイアシンでHDLを上げれば、心血管の病気が減る」——これは確認されませんでした。
2つの大規模試験(AIM-HIGH/HPS2-THRIVE)でイベントは減らず、後者では糖尿病の新規発症・感染・出血といった副作用が増えています。
ナイアシンは、脂質代謝において意味のある栄養素です。ただし「HDLを上げる目的で高用量を使えば病気が減る」という考え方は、現在の証拠に支えられていません。 ここは曖昧にしません。
6. 見るべきは「どれだけあるか」ではなく「どれだけ働くか」
このセクションの要点:HDLは船の“数”より、実際に荷物を運び出せているかどうかが問題でした。
なぜ、量を増やしても意味がなかったのか。
いま有力な答えは、こうです。大事なのはHDLの数ではなく、HDLが実際にコレステロールを引き抜いて持ち帰る力(コレステロール引き抜き能)だった。
港に船を100隻並べても、荷物を積まずに停泊しているだけなら、荷はいっこうに減りません。
これを実際に測った研究があります(Rohatgi ら, 2014)。2,924人を9.4年追いかけたところ——
| 測ったもの | 心血管イベントとの関係 |
|---|---|
| HDLの値(量) | 補正後は関係なし(1.08倍・意味のある差なし) |
| 引き抜き能(働き) | 最も高い群は最も低い群にくらべリスクが67%低い(0.33倍) |
しかもこの「働き」は、HDLの値やHDL粒子の数で補正しても、独立してリスクを言い当てました。
「善玉が多いね」と言われても、その船が働いているかどうかまでは、健診の数値は教えてくれません。
7. 低いHDLは「犯人」ではなく「知らせ」です
このセクションの要点:HDLが低いこと自体を叩くのではなく、HDLを下げている背景に手を当てます。
では、HDLが低い人はどう考えればいいのでしょうか。
HDLが低いとき、その裏側でたいてい起きていることがあります。
内臓脂肪の蓄積・運動不足・精製糖質の摂りすぎ
↓
インスリン抵抗性(インスリンが効きにくい)
↓
肝臓がVLDLを作りすぎる → 中性脂肪が上がる
↓
(CETPという酵素を介した交換が進み)
↓
HDLが下がる
つまり、**低いHDLは、インスリン抵抗性・中性脂肪高値・内臓脂肪という背景を映している“知らせ”**なのです(Ginsberg, 2000)。
※HDLが低いこと「そのもの」が病気の原因かどうかは、まだ議論があります。ここは断定しません。
だから、当院の考え(私見)はこうです。
HDLという数値を直接動かそうとしない。HDLを下げている背景を動かす。
そして幸いなことに、背景に効く手段は、地味で確実なものばかりです。
- 精製された糖質・甘い飲み物を減らす(中性脂肪の最大の原因)
- 歩く・体を動かす(運動はHDLを上げる数少ない手段のひとつです)
- 内臓脂肪を減らす
- 禁煙する(喫煙はHDLを下げます)
これらは、HDLの数値を上げるためではなく、背景そのものを整えるためにやる価値があります。結果としてHDLが上がるなら、それは目的ではなく、良くなったことの証拠です。
中性脂肪・脂質代謝を栄養面から整える具体策は、脂質異常症と分子栄養学の記事にまとめています。
よくある質問
Q. 健診でHDLが80でした。高すぎませんか? A. 心配しすぎる必要はありません。死亡が明確に増えていたのは、男性でおよそ116 mg/dL以上、女性でおよそ135 mg/dL以上という、かなり極端な高値の群です。80という値そのものより、中性脂肪・血糖・血圧・腹囲などを合わせた全体を主治医と見てください。
Q. HDLを上げるサプリを飲んだほうがいいですか? A. この記事の内容は、その逆を示しています。HDLの数値を上げること自体を目的にした介入で、心血管の病気が減った例はまだありません。 数値ではなく、背景(内臓脂肪・血糖・運動)に手を当ててください。
Q. じゃあ、HDLの数値は見なくていいのですか? A. 見る価値はあります。ただし「成績」としてではなく「知らせ」として。HDLが低いなら、その裏でインスリン抵抗性や中性脂肪の問題が進んでいないかを疑うサインになります。
Q. LDL(悪玉)のほうはどうなのですか? A. HDLとは事情が違います。LDLが心臓・血管を傷めることは、遺伝の研究でも因果関係として確立しています。 ただし「LDLが高い人ほど早死にする」という単純な話でもありません。そのややこしさは「コレステロールが高い人ほど長生き」は本当か?で整理しています。
🟢 かんたんまとめ
- LDLもHDLも、運んでいる中身は同じコレステロール。善玉・悪玉は運ぶ方向につけたあだ名。
- 63万人のデータで、HDLが高い人に増えたのは心臓以外の死亡だった。
- 極端に高いHDL(男性116 mg/dL以上)では、死亡が約2倍。いちばん死亡が少ないのはまん中。
- 生まれつきHDLが高い人でも、心筋梗塞は減っていなかった(=HDLは原因ではない)。
- HDLを上げる薬は、ことごとく失敗した。ひとつは死亡が増えて中止に。
- ナイアシンはHDLを上げる。でも、それで病気が減るわけではない。
- 大事なのは量ではなく、HDLがちゃんと働いているか(引き抜き能)。
- 低いHDLは犯人ではなく知らせ。糖質・内臓脂肪・運動不足という背景に手を当てる。
参考文献
- Ko DT, Alter DA, Guo H, et al. "High-Density Lipoprotein Cholesterol and Cause-Specific Mortality in Individuals Without Previous Cardiovascular Conditions: The CANHEART Study." J Am Coll Cardiol. 2016;68(19):2073-2083.
- Madsen CM, Varbo A, Nordestgaard BG. "Extreme high high-density lipoprotein cholesterol is paradoxically associated with high mortality in men and women: two prospective cohort studies." Eur Heart J. 2017;38(32):2478-2486.
- Voight BF, Peloso GM, Orho-Melander M, et al. "Plasma HDL cholesterol and risk of myocardial infarction: a mendelian randomisation study." Lancet. 2012;380(9841):572-580.
- Barter PJ, et al. "Effects of torcetrapib in patients at high risk for coronary events (ILLUMINATE)." N Engl J Med. 2007;357(21):2109-2122.
- Schwartz GG, et al. "Effects of dalcetrapib in patients with a recent acute coronary syndrome (dal-OUTCOMES)." N Engl J Med. 2012;367(22):2089-2099.
- Lincoff AM, et al. "Evacetrapib and Cardiovascular Outcomes in High-Risk Vascular Disease (ACCELERATE)." N Engl J Med. 2017;376(20):1933-1942.
- AIM-HIGH Investigators. "Niacin in patients with low HDL cholesterol levels receiving intensive statin therapy." N Engl J Med. 2011;365(24):2255-2267.
- HPS2-THRIVE Collaborative Group. "Effects of extended-release niacin with laropiprant in high-risk patients." N Engl J Med. 2014;371(3):203-212.
- Rohatgi A, Khera A, Berry JD, et al. "HDL cholesterol efflux capacity and incident cardiovascular events." N Engl J Med. 2014;371(25):2383-2393.
- Ginsberg HN. "Insulin resistance and cardiovascular disease." J Clin Invest. 2000;106(4):453-458.
本記事は一般的な健康情報の提供を目的とした教育記事であり、特定の医薬品・サプリメント・食品の効果を保証したり、その使用・中止・変更をすすめるものではありません。監修者は柔道整復師(国家資格)であり、医師ではありません。診断・治療方針の決定は医師の領域です。服用中のお薬や健診の数値について不安・疑問があるときは、自己判断で中止・変更せず、必ず主治医・薬剤師にご相談ください。
監修:大黒 充晴(柔道整復師(国家資格) / 杏林アカデミー(杏林予防医学研究所)上級講座修了 / JALNIマスター講座修了者 / 臨床歴23年)/ 編集:不調を整える編集部
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