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LDLが正常でも安心できない——「残りのリスク」4つ
LDLコレステロールは基準内。なのに動脈硬化が進む人がいます。理由は、LDLという数値が「粒の数」でも「中身の質」でもなく、重さを測っているだけだから。レムナントコレステロール、Lp(a)、apoB、酸化LDL——LDLだけでは見えない4つの指標と、健診の紙から自分で計算できる「non-HDLコレステロール」を、出典つきで解説します。
🟢 この記事のやさしい結論(30秒でわかる)
- LDLが基準内でも、動脈硬化が進む人がいます。 珍しい話ではありません。
- 理由はシンプル。LDLという数値は、「粒がいくつあるか」でも「傷んでいるか」でもなく、そこに乗っているコレステロールの“重さ”を測っているだけだからです。
- 見落とされやすい「残りのリスク」が4つあります。①レムナント ②Lp(a)(エルピーエー)③apoB(粒子の数)④酸化した小さいLDL。
- このうちLp(a)は9割以上が生まれつきで決まり、食事でも運動でもほとんど変わりません。だからこそ一生に一度は測る価値があります。
- そして今日すぐできることがひとつ。健診の紙の「総コレステロール」から「HDL」を引く——これがnon-HDLコレステロール。LDLより広くリスクを拾える数値で、日本のガイドラインも管理目標に採用しています。
- 生活で動かせるのは主にレムナント。糖質・アルコール・内臓脂肪が鍵です。
1. LDLという数値が、実は測っていないもの
このセクションの要点:LDL 120は「粒が120個」という意味ではありません。だから同じ120でも中身が違います。
「LDLコレステロール 120 mg/dL」。
この数字が何を意味しているか、正確にご存じでしょうか。
これは、血液100mLの中のLDL粒子に乗っている、コレステロールの総重量です。
つまり測っているのは**「積荷の重さ」**であって、
- 船(粒子)が何隻あるのか
- 船が大きいのか小さいのか
- 船が傷んで(酸化して)いないか
これらは、いっさい教えてくれません。
大型トラック10台で運んでも、軽トラック40台で運んでも、荷物の総重量は同じになります。
ところが血管にとっては、この2つはまったく違います。血管の壁に潜り込むのは「重さ」ではなく「粒」だからです。
小さい粒が大量にあるほうが、壁に入り込む機会は増えます。
これが「LDLは正常なのに」の正体です。
以下、見落とされる4つを順に見ていきます。
2. ① レムナントコレステロール——中性脂肪の“燃えかす”
このセクションの要点:LDLより強く心血管イベントを言い当てた、という研究があります。しかも炎症を伴います。
レムナントとは「残りもの」という意味です。
食事の脂肪や、肝臓が作った中性脂肪を運ぶ船(カイロミクロン・VLDL)が、中身を配りながら小さくなっていく。その配り終わりかけの、コレステロールを積んだ残骸——これがレムナントコレステロールです。
これが、近年もっとも注目されている指標です。
LDLより強かった、という研究
スペインの大規模研究(PREDIMED)で、6,901人を追跡した解析があります(Castañer ら, 2020)。
| 指標 | 心血管イベントとの関係(10 mg/dLあたり) |
|---|---|
| レムナントコレステロール | 1.21倍 |
| 中性脂肪 | 1.04倍 |
| LDLコレステロール | 意味のある関連なし |
論文のタイトルは、そのまま「LDLコレステロールではなく、レムナントコレステロールが心血管疾患の発症と関連していた」です。
しかも「原因」であることが確かめられている
遺伝子を使った検証(メンデルランダム化)でも、レムナントは虚血性心疾患の原因であることが示されています(Varbo ら, 2013)。
さらに重要なのは、次の対比です。
- レムナントが高いと、低度の炎症(CRP上昇)と虚血性心疾患の両方が起きる
- LDLが高いと、炎症を起こさずに虚血性心疾患が起きる
(Varbo ら, Circulation, 2013)
レムナントは、ただ詰まらせるだけでなく、血管に火をつけながら進む。ここが厄介なところです。
そして、レムナントは生活で動きます
これが救いです。レムナントは、中性脂肪と同じ経路で増えます。
精製糖質・甘い飲み物・アルコール・内臓脂肪——ここに手を当てれば、動きます。
4つのうち、生活で最も動かせるのがレムナントです。
3. ② Lp(a)——生まれつきで決まり、生活では動かない
このセクションの要点:9割以上が遺伝で決まります。食事も運動もほとんど効きません。だから一度だけ測る価値があります。
**Lp(a)(リポプロテイン エー)**は、LDLによく似た粒子に、「アポリポプロテイン(a)」という長いしっぽが巻きついたものです。
欧州動脈硬化学会のコンセンサス文書(Kronenberg ら, 2022)は、この物質の性質をこうまとめています。
- 血中の濃度は、90%以上が遺伝で決まる
- 食事・運動・体重減少の影響は、ほとんど受けない
- 動脈硬化性の心血管疾患と、大動脈弁狭窄症の原因である
- 高値の目安は 50 mg/dL 以上
- 高値の人は、およそ5人に1人とされる
遺伝子を使った検証でも、Lp(a)が上位5%の人は、心筋梗塞のリスクが2.6倍でした(Kamstrup ら, 2009)。
知っておくべき、ひとつの事実
スタチンは、Lp(a)を下げません。
それどころか、複数の試験をまとめた解析では、スタチン治療でLp(a)がおよそ11%上昇したと報告されています(Tsimikas ら, 2020)。
これは「スタチンが悪い」という話ではありません。スタチンがLDLを下げて心血管イベントを減らすことは、別に確立しています。
そうではなく——LDLを下げたからといって、Lp(a)のリスクは片づいていない、ということです。
だから、一生に一度
家族に若くして心筋梗塞・狭心症になった人がいる。自分はLDLが高くないのに医師に心配されている。
そういう方は、一度だけLp(a)を測る意味があります。生涯ほぼ変わらない値なので、一生に一度で足ります。
主治医に「Lp(a)は測っていただけますか」と聞いてみてください。
4. ③ apoB——「重さ」ではなく「粒の数」を数える
このセクションの要点:LDLより正確にリスクを言い当てた指標です。1粒子に1個ずつ付いているので、数えれば粒の数が分かります。
冒頭の「トラックの台数」の話を、覚えているでしょうか。
apoB(アポリポプロテインB)は、動脈硬化を起こす粒子(LDL・VLDL・レムナント・Lp(a))の1粒子に、必ず1個だけ付いているタンパク質です。
だからapoBを測れば、危険な粒子が何個あるかが分かる。
英国バイオバンクの389,529人を含む解析では、こうなりました(Marston ら, 2022)。
| 指標 | 心筋梗塞との関係(他の脂質で完全に補正した後) |
|---|---|
| apoB | 1.27倍(意味のある関連が残った) |
| non-HDLコレステロール | 1.09倍(関連は消えた) |
つまり、apoBを知っていれば、LDLやnon-HDLの情報はほぼ要らなかったのです。
「動脈硬化のリスクは、コレステロールの量ではなく粒子の数で決まる」——この考え方は、いま急速に広がっています(Sniderman ら, 2019)。
5. ④ 小さくて硬いLDL・酸化LDL——「質」の問題
このセクションの要点:同じLDLでも、小さい粒・傷んだ粒は血管に入り込みやすくなります。ただし、ここは誇張されがちです。
同じLDL 120 mg/dLでも、粒が**小さく密(small dense LDL)**であれば、粒の数は多く、血管壁に潜り込みやすくなります。
米国の大規模研究(ARIC研究・11,419人)では、小型高密度LDLが最も多い群は、最も少ない群にくらべ冠動脈疾患のリスクが1.51倍でした(Hoogeveen ら, 2014)。
ここは正直に書きます。 この研究では、LDLコレステロールとapoBでさらに補正すると、この関連は統計的に意味を持たなくなりました。
つまり「小型LDLはLDLとは独立した別のリスクだ」と言い切るのは、言い過ぎです。
正確には——LDLが正常に見える人でも、小型LDLが多ければ残りのリスクがありうる。ここまでです。
酸化LDLについても同様です。健康な中年男性を対象にした研究では、酸化LDLが最も高い群のリスクは4.25倍と報告されていますが、これは男性のみ・比較的小規模な研究であり、幅を持って読む必要があります(Meisinger ら, 2005)。
それでも、当院が「量より質」を長く言い続けてきた理由は、ここにあります。血管の壁に取り込まれるのは、酸化した LDL だからです。
6. 今日できる一手——健診の紙で、自分で計算する
このセクションの要点:総コレステロール から HDL を引くだけ。それが non-HDLコレステロールです。
「apoBもLp(a)も、健診では測っていない」——そのとおりです。
でも、今持っている健診結果の紙だけで計算できる、優れた指標があります。
non-HDLコレステロール = 総コレステロール − HDLコレステロール
これだけです。電卓もいりません。
なぜ優れているのか。HDL以外のすべて——LDLも、レムナントも、Lp(a)も、VLDLも——を、まとめて拾えるからです。
LDLだけでは見えなかったレムナントが、この数字には入っています。
日本動脈硬化学会の「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版」も、non-HDLコレステロールを管理目標として正式に採用しています。
| 立場 | non-HDLコレステロールの目標 |
|---|---|
| 一次予防・低リスク | 190 mg/dL 未満 |
| 一次予防・中リスク | 170 mg/dL 未満 |
| 一次予防・高リスク | 150 mg/dL 未満 |
| 二次予防(心筋梗塞などの既往) | 130 mg/dL 未満 |
| 二次予防のうち特に高リスク | 100 mg/dL 未満 |
※どのリスク区分に当たるかは、年齢・性別・血圧・血糖・喫煙・家族歴などで決まります。自己判断せず、主治医にご確認ください。
いま、健診の紙を出してきて、引き算をしてみてください。LDLの数字だけを見ていたときより、はるかに正確な景色が見えます。
7. 生活で動かせるのは、どれか
このセクションの要点:Lp(a)は動きません。apoBと小型LDLは間接的に。狙うべきは、レムナントです。
4つを、動かせる順に並べ直します。
| 指標 | 生活で動くか | 何が効くか |
|---|---|---|
| レムナント | よく動く | 精製糖質・甘い飲み物・アルコールを減らす/内臓脂肪を減らす |
| 小型LDL・酸化LDL | 動く | 上と同じ+抗酸化・禁煙 |
| apoB(粒子数) | やや動く | 上の結果として下がる |
| Lp(a) | ほぼ動かない | 遺伝で決まる。だから他のリスクを下げて総和を減らす |
やることは、結局ひとつに収れんします。
中性脂肪を作りすぎない体にすること。
- 精製された糖質・甘い飲み物を減らす(レムナントの最大の原因)
- アルコールを見直す
- 内臓脂肪を減らす・歩く
- トランス脂肪酸を避ける
- 禁煙する
そして、栄養から支える一手が EPA(オメガ3脂肪酸) です。
EPAについて、誇張せずに書きます
- 日本人の高コレステロール血症患者18,645人を対象にしたJELIS試験では、EPA 1,800mg/日の追加により、主要な冠動脈イベントが19%減少しました(Yokoyama ら, 2007)。※オープンラベル試験です。
- 高純度EPA製剤を高用量(4g/日)使ったREDUCE-IT試験では、心血管イベントが約25%減少しました(Bhatt ら, 2019)。
- ただし。 REDUCE-ITの偽薬に使われた鉱物油が対照群の数値を悪化させた可能性が指摘されており、また EPA+DHA製剤を使ったSTRENGTH試験では、効果は認められませんでした(Nicholls ら, 2020)。
つまり、「オメガ3なら何でも効く」わけではありません。 製剤の種類・用量・対象によって結果が割れています。
そのうえで、EPAが中性脂肪とレムナントを下げる方向に働くことは、一貫して確認されています。ここが、この記事の文脈での価値です。
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※サプリメントは医薬品ではなく、病気の治療や予防を目的としたものではありません。服薬中の方(とくに抗凝固薬)は、必ず主治医にご相談ください。
よくある質問
Q. LDLが正常なら、放っておいていいのですか? A. LDLが正常なのは良いことです。ただし、それは「危険な粒子が少ない」ことを保証していません。まずは non-HDLコレステロール(総コレステロール − HDL) を計算してみてください。ここが高ければ、レムナントが多い可能性があります。
Q. Lp(a)が高かったら、どうすればいいのですか? A. Lp(a)そのものを生活で下げることは、ほぼできません。ですから戦略は「他のリスクを徹底的に下げて、総和を減らす」になります。LDL・血圧・血糖・喫煙・内臓脂肪。どれも、あなたの側で動かせます。治療方針は必ず主治医とご相談ください。
Q. apoBはどこで測れますか? A. 一般的な健診の項目には入っていないことが多く、医療機関での追加検査になります。まずは主治医に、Lp(a)とあわせて相談してみてください。
Q. 「悪玉が高いほど長生き」という話も聞きました。 A. その話も、実在する研究にもとづいています。ただし読み方に重要な条件があります。「コレステロールが高い人ほど長生き」は本当か?で整理しました。あわせて、「善玉は高いほど良い」は本当か?もご覧ください。
🟢 かんたんまとめ
- LDLは、粒の数でも質でもなく、積荷の重さを測っているだけ。だから正常でも安心できない。
- レムナント=中性脂肪の燃えかす。LDLより強くイベントを言い当てた研究があり、炎症も伴う。生活で最も動かせる。
- Lp(a)=9割以上が生まれつき。食事も運動も効かない。スタチンでも下がらない(むしろ少し上がる)。だから一生に一度は測る。
- apoB=危険な粒子の数。他の脂質で補正しても、リスクを言い当てた。
- 小型LDL・酸化LDL=質の問題。ただし「LDLと独立」と言い切るのは言い過ぎ。
- 今日できること=総コレステロール − HDL = non-HDLコレステロール。 日本のガイドラインの管理目標。健診の紙で計算できる。
- 生活の的はレムナント。精製糖質・甘い飲み物・アルコール・内臓脂肪。
参考文献
- Castañer O, Pintó X, Subirana I, et al. "Remnant Cholesterol, Not LDL Cholesterol, Is Associated With Incident Cardiovascular Disease." J Am Coll Cardiol. 2020;76(23):2712-2724.
- Varbo A, Benn M, Tybjærg-Hansen A, et al. "Remnant cholesterol as a causal risk factor for ischemic heart disease." J Am Coll Cardiol. 2013;61(4):427-436.
- Varbo A, Benn M, Tybjærg-Hansen A, Nordestgaard BG. "Elevated remnant cholesterol causes both low-grade inflammation and ischemic heart disease, whereas elevated low-density lipoprotein cholesterol causes ischemic heart disease without inflammation." Circulation. 2013;128(12):1298-1309.
- Kronenberg F, Mora S, Stroes ESG, et al. "Lipoprotein(a) in atherosclerotic cardiovascular disease and aortic stenosis: a European Atherosclerosis Society consensus statement." Eur Heart J. 2022;43(39):3925-3946.
- Kamstrup PR, Tybjaerg-Hansen A, Steffensen R, Nordestgaard BG. "Genetically elevated lipoprotein(a) and increased risk of myocardial infarction." JAMA. 2009;301(22):2331-2339.
- Tsimikas S, et al. "Statin therapy increases lipoprotein(a) levels." Eur Heart J. 2020;41(24):2275-2284.
- Marston NA, Giugliano RP, Melloni GEM, et al. "Association of Apolipoprotein B-Containing Lipoproteins and Risk of Myocardial Infarction in Individuals With and Without Atherosclerosis." JAMA Cardiol. 2022;7(3):250-256.
- Sniderman AD, et al. "Apolipoprotein B Particles and Cardiovascular Disease: A Narrative Review." JAMA Cardiol. 2019;4(12):1287-1295.
- Hoogeveen RC, Gaubatz JW, Sun W, et al. "Small Dense LDL Cholesterol Concentrations Predict Risk for Coronary Heart Disease: the Atherosclerosis Risk In Communities (ARIC) Study." Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2014;34(5):1069-1077.
- Meisinger C, Baumert J, Khuseyinova N, Loewel H, Koenig W. "Plasma oxidized low-density lipoprotein, a strong predictor for acute coronary heart disease events in apparently healthy, middle-aged men from the general population." Circulation. 2005;112(5):651-657.
- Yokoyama M, Origasa H, Matsuzaki M, et al. "Effects of eicosapentaenoic acid on major coronary events in hypercholesterolaemic patients (JELIS): a randomised open-label, blinded endpoint analysis." Lancet. 2007;369(9567):1090-1098.
- Bhatt DL, Steg PG, Miller M, et al. "Cardiovascular Risk Reduction with Icosapent Ethyl for Hypertriglyceridemia (REDUCE-IT)." N Engl J Med. 2019;380(1):11-22.
- Nicholls SJ, Lincoff AM, Garcia M, et al. "Effect of High-Dose Omega-3 Fatty Acids vs Corn Oil on Major Adverse Cardiovascular Events in Patients at High Cardiovascular Risk: The STRENGTH Randomized Clinical Trial." JAMA. 2020;324(22):2268-2280.
- 日本動脈硬化学会「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版」.
本記事は一般的な健康情報の提供を目的とした教育記事であり、特定の医薬品・サプリメント・食品の効果を保証したり、その使用・中止・変更をすすめるものではありません。監修者は柔道整復師(国家資格)であり、医師ではありません。診断・治療方針の決定は医師の領域です。検査の追加や治療については、必ず主治医にご相談ください。服用中のお薬を自己判断で中止・変更しないでください。
監修:大黒 充晴(柔道整復師(国家資格) / 杏林アカデミー(杏林予防医学研究所)上級講座修了 / JALNIマスター講座修了者 / 臨床歴23年)/ 編集:不調を整える編集部
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