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循環器・血管

トランス脂肪酸は「飲食店で出すと処罰される」って本当?——世界の規制と日本の“今”を整理

海外ではトランス脂肪酸が禁止・規制されていると聞くけれど、日本は?「飲食店で提供すると処罰される」は本当でしょうか。工業由来と天然由来の違い、デンマーク・アメリカ・WHOの規制、そして日本の現状を、こわがらせず誠実に、分子栄養学の視点で整理します。

不調を整える編集部(監修:大黒 充晴/柔道整復師・臨床23年)トランス脂肪酸工業由来部分水素添加油脂マーガリンショートニング心血管食品規制分子栄養学

🟢 この記事のやさしい結論(30秒でわかる)

  • 「海外ではトランス脂肪酸が禁止」というのは、ほぼ工業でつくられるタイプ(マーガリンやショートニングの原料)の話です。
  • デンマークやアメリカのように、ルールを破った“お店・メーカー”が罰せられる国はあります。でも、それを食べた人が罪になるわけではありません
  • 日本には量の規制も罰則もありません。日本人の平均的な摂取量は少なめとされますが、揚げ物・菓子パンに偏った食べ方だと摂りすぎになり得ます。
  • こわがって外食をやめる必要はありません。大事なのは**「工業由来の油を、毎日たくさん摂り続けない」**という一点だけ。
  • オリーブオイルや青魚の脂など質のよい油はむしろ味方。避けたいのは「揚げ物・加工油脂の摂りすぎ」です。

「海外では禁止なのに、日本は野放し?」という不安に

このセクションの要点:この記事は、こわがらせるためでも安心させるためでもなく、事実だけを整理します。

「トランス脂肪酸は体に悪い」「海外では飲食店で出すと処罰される」——。

そんな話を聞いて、外食の揚げ物やマーガリン、菓子パンが急に不安になった方もいるかもしれません。

一方で、「日本では規制されていないから危険なんじゃないか」という声もあります。

今日は、この“処罰される”という話が本当なのか、世界と日本で規制がどう違うのかを、事実ベースで誠実に整理していきます。


そもそもトランス脂肪酸には「2種類」ある

このセクションの要点:世界で規制されているのは、ほぼ“工業由来”のほうです。まずここを分けて考えます。

「トランス脂肪酸」とひとくくりにされがちですが、由来がまったく違う2つがあります。

タイプどこから主な扱い
工業由来(iTFA)液体の油を固めるために水素を添加する過程などで生じる部分水素添加油脂を使ったマーガリン・ショートニング・それらで作る揚げ物・菓子・パン世界の規制の対象はほぼこれ
天然由来牛・羊など反芻(はんすう=胃で発酵させて消化する)動物の胃の中で自然にできる牛肉・乳製品にごく微量量が少なく、規制の主対象ではない

世界で問題にされ、規制されてきたのは、ほぼ**工業由来(industrial trans fat=iTFA)**の方です。

その代表的な原料が「部分水素添加油脂(PHO=液体の植物油に水素を加えて固めた油)」です。


なぜ規制されるのか——心臓・血管への影響

このセクションの要点:工業由来のトランス脂肪酸は、心臓・血管の病気のリスクを上げる証拠が積み重なっています。

トランス脂肪酸が世界的に規制される理由は、心臓・血管の病気のリスクを上げるという証拠が積み重なっているからです。

工業由来のトランス脂肪酸は、

  • LDL(いわゆる悪玉)コレステロールを上げ、HDL(善玉)を下げる方向に働きやすい
  • 慢性的な炎症にも関わると考えられている

とされ、これらを通じて心筋梗塞などのリスクを高めることが、複数の研究で示されています。

WHO(世界保健機関)は、工業由来トランス脂肪酸の摂取が世界で毎年およそ50万人の心血管死に関わっていると見積もっており、これが「世界からなくそう」という動きの根拠になっています。

なお、この心血管への不利さは、主に工業由来についてのもの。

牛肉・乳製品に含まれる天然由来は、通常の摂取量では明確な害が示されていません(観察研究のメタ解析でも、工業由来だけが冠動脈疾患=心臓を養う血管の病気と有意に関連したと報告されています)。

同じ「トランス脂肪酸」でも、由来で扱いが分かれる——ここが大切なポイントです。


「飲食店で出すと処罰される」は本当か——国で違う

このセクションの要点:罰せられるのは“ルールを破った事業者”。食べた消費者ではありません。

結論から言うと、「工業由来トランス脂肪酸を規制し、違反した事業者に罰則を科す」国・地域は実在します。ただし、内容は国によって差があります。

国・地域規制の内容(要約)
デンマーク(2003年〜)世界で初めて、油脂中の工業由来トランス脂肪酸を上限(脂肪の2%まで)に制限。違反した事業者は罰則の対象。事実上、市場から工業由来トランス脂肪酸が姿を消した
ニューヨーク市(2006〜07年〜)アメリカで先駆けて、飲食店での人工的なトランス脂肪酸の使用を規制(違反は市の衛生規定違反として扱われた)
アメリカ(FDA/2018年〜)トランス脂肪酸の主原料「部分水素添加油脂(PHO)」を“安全とみなせる(GRAS)”対象から外し、食品への使用を実質的に禁止(主要用途は2018年、完全排除は2021年)
EU(2021年〜)域内全体で、食品中の工業由来トランス脂肪酸を油脂100gあたり2gまでに制限
WHO(2018年〜)「REPLACE」計画で、工業由来トランス脂肪酸を世界の食品からなくす目標を提示。多くの国がこれに沿って規制を導入

WHOのまとめによれば、2023年末の時点で、こうした“望ましい規制”を持つ国は**50を超え、世界人口のおよそ半分近く(約46%)**をカバーするまでになりました(2018年はわずか6%)。

ただし「2023年までに世界からゼロに」という当初の目標は、まだ完全には達成されていません。

大事なのは、**罰せられるのは「規制に違反した事業者(製造者・販売者)」**であって、それを食べた消費者が罰せられるわけではないということです。

「トランス脂肪酸を口にすると罪になる」という意味ではありません。

つまり「世界の飲食店で出すと処罰される」は、**“工業由来を規制している国では、規制に反する使い方をした事業者は罰則対象になり得る”**という形で、部分的に本当、と言えます。


では、日本はどうなっているのか

このセクションの要点:日本に規制はありませんが、問題は「規制の有無」より「自分の食べ方の偏り」です。

日本には、食品中のトランス脂肪酸の含有量を制限する法規制も、表示の義務も、罰則もありません(執筆時点)。

背景には、日本人の平均的な摂取量が国際的な目安より少なめとされてきた事情があります。

食品安全委員会の評価などでも、平均的な食生活では健康への影響は大きくないと整理されてきました。

ただし、これは「誰でも大丈夫」という意味ではありません。

  • 揚げ物・菓子パン・洋菓子・スナック菓子・一部のマーガリンなどに偏った食生活の人
  • 外食・中食(惣菜・弁当)が多い人

では、摂取量が平均より多くなり得ます。

「日本は規制がないから危険」でも「規制がないから気にしなくていい」でもなく、自分の食べ方しだい、というのが誠実なところです。

なお、日本の食品メーカーの多くは、近年トランス脂肪酸を自主的に減らす取り組みを進めています。


家庭・外食での現実的な付き合い方

このセクションの要点:「工業由来を、日常的に大量に摂り続けない」——押さえるのはこの一点だけ。

こわがって外食を一切やめる必要はありません。**「工業由来を、日常的に大量に摂り続けない」**という一点を押さえれば十分です。

  • 原材料表示を時々見る:「ショートニング」「マーガリン」「ファットスプレッド」「加工油脂」「植物油脂(一部)」が上位に並ぶ加工食品を“毎日の定番”にしない
  • 揚げ物・菓子パン・洋菓子・スナックの“頻度”を下げる:たまに楽しむのはOK。毎日の習慣にしないこと
  • 古い油・使い回した揚げ油に注意:家庭でも、酸化・劣化した油はトランス脂肪酸を含みやすくなります
  • 油そのものを悪者にしない:オリーブオイルや青魚の脂など、質のよい油はむしろ味方。「揚げ物・加工油脂の摂りすぎ」を避ける、という角度で

「何を足すか」より「工業由来の摂りすぎを、どう避けるか」。ここが実用的なポイントです。


誇張しないための整理

このセクションの要点:よくある“こわい言われ方”を、事実と並べて見比べてみましょう。

よくある言われ方実際のところ
「海外では食べると処罰される」罰せられるのは規制違反の事業者。消費者ではない
「トランス脂肪酸は全部危険」主に問題は工業由来。天然由来はごく微量で扱いが別
「日本は無法地帯で危ない」規制はないが平均摂取は少なめ。偏った食べ方が問題
「油はすべて避けるべき」質のよい油はむしろ必要。避けたいのは工業由来の摂りすぎ

コレステロールそのものの見方はコレステロールは低いほど良い?——最新研究が示す“本当のところ”、血管を守る栄養は動脈硬化を進めない食べ方——マグネシウム・オメガ3・ビタミンK2もあわせてどうぞ。


🟢 かんたんまとめ

  • 世界で規制されているのは、ほぼ工業でつくられるトランス脂肪酸(マーガリン・ショートニングの原料)。
  • デンマークやアメリカのように、ルール違反の“お店・メーカー”を罰する国はある。でも食べた人が罪になるわけではない
  • 日本には規制も罰則もない。平均の摂取は少なめだが、揚げ物・菓子パンに偏ると摂りすぎになり得る。
  • やることは一つ——工業由来の油を、毎日たくさん摂り続けない。たまの外食はこわがらなくてよい。
  • オリーブオイルや青魚の脂など質のよい油は味方。避けたいのは「揚げ物・加工油脂の摂りすぎ」。

「規制の有無」に一喜一憂するより、自分の食べ方の“偏り”を整える。それが、遠回りに見えて一番確実な守り方です。


本記事は教育目的の情報提供です。規制・制度の内容は変わることがあり、最新の情報は各国の公的機関(日本では消費者庁・食品安全委員会など)でご確認ください。持病のある方・脂質異常症などで治療中の方は、食事の大きな変更前に医師・管理栄養士にご相談ください。

監修:大黒 充晴(柔道整復師(国家資格) / 杏林アカデミー(杏林予防医学研究所)上級講座修了 / JALNIマスター講座修了者 / 臨床歴23年)/ 編集:不調を整える編集部

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