「異常なし」なのに痛み・しびれが続く——慢性的な不調に見落とされている5つの原因
MRI・血液検査で「異常なし」と言われたのに、腰痛・肩こり・しびれが何ヶ月も続いている。その背景には、通常の検査では見えにくい5つの原因が潜んでいます。分子栄養学・神経科学・自律神経の視点から、原因不明の慢性痛を整えるためのアプローチを解説します。

「検査では異常ありません」——でも、痛みは本物です
整形外科でMRIを撮った。血液検査も受けた。「特に問題ないですよ」と言われた。
でも家に帰ってきたら、また腰が重い。肩がこる。指先がしびれる。
「異常がないなら、この痛みはなんなんだろう」
こう感じたことがある方は、決して少なくありません。
慢性的な痛みやしびれを抱えながら「検査では異常なし」と言われる方の多くには、通常の医療検査では見えにくい原因が複数重なっています。それは「気のせい」でも「加齢だから仕方ない」でもありません。
この記事では、23年の臨床経験と分子栄養学・神経科学の知見から、「異常なし」の慢性痛・しびれの背景に潜む5つの原因を解説します。
原因① 中枢感作——脳の神経回路が「痛みモード」に固定化している
最も見落とされやすく、最も重要な原因です。
慢性的な痛みが続くと、脳や脊髄の神経回路が過敏化・固定化した状態になります。これを**中枢感作(Central Sensitization)**と呼びます。
この状態になると、組織が完全に回復したあとも、脳が「まだ危険がある」と誤って痛みを出力し続けます。MRIに映らないのは当然で、問題は末梢の組織ではなく、脳の「解釈」にあるからです。
中枢感作が疑われるサインとして以下が挙げられます。
- 軽い触れただけで痛みを感じる(アロディニア)
- 天気・ストレス・気分によって痛みが強くなる
- 痛みの場所が変わる・広がる
- 治療を受けると一時的によくなるが、すぐ戻る
- 夜間や安静時にも痛む
コロラド大学の研究(Ashar et al., 2021, JAMA Psychiatry)では、慢性腰痛患者に対して脳の痛み回路を再学習させる「疼痛再処理療法(PRT)」を行ったところ、66%が痛みなし・ほぼなしに到達しました。組織を治療するのではなく、脳の誤作動を修正することで慢性痛が整う可能性を示した重要な研究です。
▶ PRTについて詳しくはこちら 疼痛再処理療法(PRT)とは——慢性痛・しびれに「脳から」アプローチする治療法
原因② 機能的な栄養素不足——「基準値内」でも不足している
血液検査の数値が「基準値内」でも、細胞レベルでは栄養素が不足しているケースがあります。これを機能的な栄養素不足といいます。
特に慢性的な痛み・しびれ・疲労感と関連が深いのは以下の栄養素です。
| 栄養素 | 不足したときの慢性痛・しびれへの影響 |
|---|---|
| マグネシウム | 筋肉の過緊張・神経の過興奮(NMDA受容体の過活性)・中枢感作の促進 |
| ビタミンB12 | 末梢神経の修復障害・しびれ・電気刺激感 |
| ビタミンD | 神経機能・免疫調節・慢性炎症の悪化 |
| 鉄(フェリチン) | 神経への酸素供給低下・足のしびれ・慢性疲労 |
| オメガ3 | 神経炎症の慢性化・痛みの閾値の低下 |
特にマグネシウムは、NMDA受容体(脳の痛み増幅に関わる受容体)の天然のブロッカーとして働きます。マグネシウムが不足すると、脊髄後角での痛み信号が増幅されやすくなり、中枢感作が進みやすくなります。

原因③ 慢性的な微小炎症——通常の検査では見えにくい炎症
通常の血液検査で測るCRP(炎症反応)は、感染症や急性炎症には敏感ですが、慢性的な低レベルの炎症(神経炎症・腸管炎症)は見えにくいという特徴があります。
腸の粘膜が傷んで「リーキーガット(腸漏れ)」の状態になると、腸内細菌の破片(LPS:リポ多糖体)が血液中に流れ込み、全身性の慢性炎症・神経炎症を引き起こします。
この神経炎症は脳のミクログリア(免疫細胞)を活性化させ、痛みの過敏化・脳の霧がかかったような感覚(ブレインフォグ)・倦怠感として現れます。
通常の病院検査では「異常なし」と判断されても、腸と脳の炎症連鎖が続いているケースがあります。
原因④ 自律神経の慢性的な乱れ
慢性的なストレス・睡眠不足・血糖値の急な上下が続くと、自律神経が「交感神経優位」の状態に固定化します。
この状態では:
- 筋肉が慢性的に緊張しやすくなる
- 血流が低下し、組織への酸素・栄養素の供給が落ちる
- 痛みに対する感受性が高まる(痛みの閾値が下がる)
- 睡眠の質が低下し、組織の修復が滞る
こうした「体が常に戦闘状態にある」という自律神経の乱れは、画像検査や血液検査には映りません。しかし実際には、痛みや不調を慢性化させる大きな要因になっています。
原因⑤ 薬による栄養素の枯渇
長期間薬を服用している方の場合、薬が特定の栄養素を枯渇させることで、不調が長引いているケースがあります。
| 薬の種類 | 枯渇しやすい栄養素 | 関連する不調 |
|---|---|---|
| PPI(胃酸抑制薬) | B12・マグネシウム・亜鉛 | しびれ・筋けいれん・疲労 |
| スタチン(コレステロール薬) | CoQ10 | 筋肉痛・疲労感 |
| 経口避妊薬(ピル) | B6・葉酸・亜鉛 | 気分の変動・慢性疲労 |
| 利尿剤 | カリウム・マグネシウム | 足がつる・だるさ |
薬の効果を維持しながら、不足しやすい栄養素を意識的に補充することが、慢性的な不調の改善につながることがあります。
5つの原因を整理する
| 原因 | 検査で見えるか | 主なアプローチ |
|---|---|---|
| 中枢感作(脳の誤作動) | 見えにくい | PRT・ACT・痛み教育 |
| 機能的な栄養素不足 | 見えにくい | 分子栄養学的な補充 |
| 慢性的な微小炎症 | 見えにくい | 腸内環境・食事改善 |
| 自律神経の乱れ | 見えにくい | 睡眠・血糖・ストレス管理 |
| 薬による栄養枯渇 | 見えにくい | 服薬と栄養補充の両立 |
「異常なし」という言葉は「何も問題ない」ではなく、「通常の検査の範囲では見つかっていない」という意味です。
慢性的な痛み・しびれを長年抱えている方のほとんどは、上記の5つのうち複数が重なっています。1つずつ丁寧に整えていくことが、根本からの改善への道になります。
次に読んでほしい記事
痛み・しびれの原因として最も重要な「中枢感作」とその対処法については、以下の記事で詳しく解説しています。
本記事は教育目的の情報提供です。慢性的な痛みやしびれの診断・治療については医療機関にご相談ください。
監修:大黒 充晴(柔道整復師(国家資格) / 杏林アカデミー(杏林予防医学研究所)上級講座修了 / JALNIマスター講座修了者 / 臨床歴23年)/ 編集:NJM編集部
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